コンジュジ

 

 

単行本で読んだけど今は文庫が出ているみたい。文庫だとあとがきがあったりするのかな。

児童性虐待の描写があるのでトラウマのあるひととかは読まない方がいいと思う。

 

小説はすごくよかった。1980年代生まれの主人公せれなは、11歳のとき、70年代のロックバンドのボーカル、リアンに恋をする。彼女は没後10年の特集番組で姿を知ったそのスターと、健やかなるときも実父に性的虐待を受けるときも、イマジナリーフレンドのように一緒にいることになる。父親の元恋人に父親が殺されたあとも、自分の人生の記憶を補完するもうひとつの世界として、彼をとりまくあのころの世界が機能し続けている。

父親を殺したベラさんというブラジル人の女性が実力者で、どうしてこんな気持ちの悪い男といっときでも付き合うことになったのかはわからないけど、お金の問題だったのかもしれない。たぶん娘であるせれなへの性的虐待を知った上で殺したのだと思う。

高校を中退し、18で一人暮らしを始めたせれなの人生には特に暖かい救いの手のようなものはなくて、ただフラッシュバックや解離の症状と折り合いをつけて過ごすことが続いてゆくらしいのだけど、抜け落ちている記憶と向き合う作業が、彼女自身が作り上げたリアンとの世界と現実世界のあわいで行われることが、どうやら彼女にとってはセラピーの一種であるらしいと思う。本来なら医療ケアの対象になるだろう状態なのだけど、どんなに病気らしい人であったとしても、その人全体が病気になってしまうわけではなく、病気なら病気なりの内的な世界というものがあり、それは生きるために必要な働きを得ようと絶えず蠢いているのだと感じた。

彼女は父の命日に、リアンの棺に入る夢を見るが、その死は生きるために必要なものだ。自分の大切な部分を安らかに休ませること、侵されない領域に隠すこと、大切に弔うこと。ラストシーンを私はそのようなイメージで読んだ。このためなら毎日死んで毎日棺から出勤してもいい。

 

追伸:全体にとにかく重たくて悲しいはずなのだけど、リアンとザ・カップスの側の描写は、私たちが生きた世界のいくつかのバンドを掛け合わせたような、ある種テンプレ的なストーリーで、そこのメタを感じておくことで多少 "フィクションを読んでいる" 気分を保ちやすくなったように思う。せれなにとってだけでなく読者にとってもありがたい逃避先だった。