映画館がはねて

 

 

古本のリンクしか見つけられなかった。1989年に出た本だから仕方がないか。

寅さんシリーズで有名な山田洋次監督があちこちに連載したエッセイやコラムを集めた本。同じエピソードが違う切り取り方で2回登場したりして、忙しい人はこうやって書くのか、なるほどなあと思ったりした。

百貨店の店員がくれた休憩中のバッジをつけて山田洋次とのお茶に現れる渥美清のエピソードはよかった。

「今、何をしてらっしゃるんですか」と尋ねたので、お正月の寅さんの撮影が済んで、現在休憩中です、と答えたところ、彼女は、「じゃ、これつけてあげましょう」

と言って自分の胸につけてあった『休憩中』と書いたバッジをはずし、渥美さんの胸につけてくれたそうである。-中略-

「その時からずーっと、このバッジつけて歩いてるんですよ。何しろ私は休憩中なんですから」

小さな恋の話として読んだけど、店員さんが素人なのに渥美清と1カット共演して負けていないのがすごい、国民的スター相手にそんなことをやってのける店員、あまりいないだろうと思う。

そのほかも時代の雰囲気が伝わってくるエピソードがたくさん読める。映画人について書いているものも多いので、映画が好きな人なら寅さんをたいして見てなくても興味深いんじゃないかなと思う。

そういえばこの本に、寅さんシリーズはマンネリを心配しだしたころ、8作目が同じ日に封切られたゴッドファーザーよりヒットして、作るのをやめられなくなった旨書いてあったので、気になってマドンナを調べたら池内淳子だった。なんとも言えない納得があって、寅さんはいつもリビングで流れているのをチラチラ見るくらいだったけど、今度ひとりで見てみようかと思った。