黄色い雨

 

黄色い雨 (河出文庫)

黄色い雨 (河出文庫)

 

 

表題作、終わりかたが私に取ってはある種の反則で、感情が揺さぶられてしまった。でもそれを差し引いても美しい小説だったと思う。

主人公が一人称で語るとき、彼がどのように語るか、景色をどのように描写するか、それらを通してしか、彼が世界のどのレイヤーにいるか、どのレベルの意識を保っているか、読者にはわからない。

一つの村が終わりを迎えるまでの話ではあって、最後の住人が物理的に孤独であることについてもごく丁寧な描写があるのだが、そもこの小説が全編一人称によって展開され、妻や亡霊、すべての他者が徹底的に客体として描かれることに、人間が抱える構造的な孤独を見ずにはいられない。それは一人称の小説全てに共通の構造であるはずだが、この小説においては、彼には認識できないもの、見えていないものの気配が色濃く漂っている。彼が死に近づくにつれ、世界が判然としなくなっていく。生と死を貫く開闢の孤独をひたと見据える作者の、強い、強い視線を感じた。