白い薔薇の淵まで
魂ポルノが過ぎてて一息で読んだ。この人の本は見かけたら買うので冒頭すら立ち読みしなかったのだけど、主人公が運命の相手・山野辺塁との出会いを回想する18ページは、おんなじ仕組みでいくらでも現パロを書きたいくらい美しくてベーシックで劇的だった。
作中でめちゃめちゃな女として設定されているのは売れない作家である山野辺塁なのだけど、恋で頭がおかしくなっている度合いで言えばバリキャリOLであるクーチの方だ。
「いいかげんにして」
「寝たなら寝たと言って。怒らないから」
言いながら、ぽろぽろ涙が出てきてとまらなくなった。本当はシラを切ってほしかった。本当のことなんか聞きたくなかった。
「絶対に寝てない」
「ほんとう?」
「わたしは悪い人間だけど、クーチだけは裏切らないよ」
力強い、実に誠実な響きをこめて塁は断言した。助かった。嘘でもいいから助かった。
これ塁は全然他の女と寝ているのだけど、ここでシラを切ってくれる人間のことしか私ももう信じられないんだよなと思う。全部がグチャグチャでも、嘘をついてくれなかったら死ぬ場面では嘘をついてくれる、こういうことがいつだって地獄なのだ。
それでボロボロになって別れて
はじめの二週間は、二年間のようだった。
とクーチは思う。二週間鉛を飲み込んだまま暮らすと、最初の二週間よりは息のしやすい次の週がやってくる。そのことの信じられないような寂しさを思い出していた。息ができないくらい泣いている方がマシだったのに、人間は楽になってしまう。もしあのまま立ち直るくらいなら即座に死にたかった。クーチの場合は塁から電話がかかってきて全部が台無しになる。この二人は何度も台無しになって、最後まで一緒にいられて、本当に羨ましかった。
そうやって一生分の恋愛を読んだあとには救いが待っている。河出文庫版のあとがきがあるのだ。作家はこの作品が発表された当時から、河出文庫に収められるまでの20年を過ごすうちに、
色恋沙汰の煩悩から解放され、心から孤独を愉しめる境地に至った
そうなのだ。私も早くそうなりたいな、と思う。でも中山可穂は小説を沢山書いて売ってお金も人脈もあるからそう思えるんだろうし、私もなんとか一人で居られるように準備をしなくちゃ、と思う。中山可穂と同世代じゃなくてよかった。