日本という国

決定版 日本という国 - 新曜社 本から広がる世界の魅力と、その可能性を求めて 小熊英二

昨日読みかけの小説を家に置いたまま、人との約束を待つことになったので図書館で借りた本だ。「よりみちパン!セ 中学生以上すべての人に。」のシリーズなのでそうさな小5くらいから読める。私は2時間半くらいかけて読んだけれど、本文が200ページないくらいなので、途中でiPhoneに寄り道しなければたぶんもっとスッと読める。

内容的には文明開化の時期と戦後復興から現代までの、近代国家としての2回の"建国時代"にスポットを当てて「日本という国」のあり方について考えてみよう、というものだった。もちろん学校で習うことと重複するので、もう知ってるよーということもあるのだけど、私なんかはいい加減なので太平洋戦争時の中国の死者数が日本の死者数を軽く上回る(数字は諸説ありそうなのでこの本でどの数字を採用しているかは書かないが)ことなんかについて、考えてみたことがなくて、そういう基礎的な知識の凹凸を均すことができた。

そういった教科書的な知識の確認と構造的な問題の整理に役立つ平明な文章は、どのような政治的立場をとる人にとっても役立つのではないかと思う。

そしてこれは大人がこの本を読むときのもう一つの楽しみだと思うのだけど、著者が "複雑な内容をどのように噛み砕いているか" "個別の政治的な意見の記述をどのラインで差し控えているか" というところが非常にワビサビなので注目して読んでみてほしい。より広く読まれるために、また10代を想定している読者自身の思考を促すために選択された慎重な筆致は、当然のことながら著者の問題意識のあり方と不可分であるように感ぜられる。この読みものは、若い世代に「日本という国」の歴史的文脈を共有することによって、彼らが、戦後続く"ナショナリズム・スパイラル" に無自覚なまま巻き込まれてしまうことを防ぐ、灯台なのだと思う。

この本を一冊読み通せる人となら、その人がどのような人物であれある程度の会話はできそうな気がした。決定版刊行は2018年で1年前だけど、私は今読んで、日本にいて息苦しい人にも、隣の国が嫌いで仕方ない人にも、開かれている一冊だと思っている。読まれ続けますように。