族長の秋

ガルシア=マルケスの作品。おそらく中南米のある国のとても長生きな大統領の話。
膨大な謬大なイメージが次から次へと現れるが為に読み終わった後に随分長い時間を
生きたような気持になります。
「芳醇なリアリズム」みたいなことを散々言われ尽くしているのだろうと思うのですが、
この作品を読んでいる時に自分のまわりを取り囲むむせ返るような生き物の気配、匂い、植物の香り、人間の肉体に流れる血や、その他の体液の重み、水が流れたり溜まったり降ったり滲み込んだりして移動する土地の息吹、そういうものは、この作品を読んだ時に特筆せずにはいられないものだと思います。


もちろんこれは大統領という一人の人物に焦点があたっているはずの作品ですが、
彼自身はこの世界でそうあるしかなかったやり方で彼であっただけで、
世界がそうであったので彼のあり方がこのようであったのだし、
彼がこのようであったために世界はそのようになったのだということに、自然と得心がいく造作になっています。

描かれている情景と彼の人格は同じひとつのものでした。

花や鳥や牛やサテンの手袋やハンモックを、繰り返し脳裏に描くうちに、
あっという間に終わってしまう本でした。