ひきなみ

 

 

気まぐれにハードカバーで買ってあった。人気の作家だからっていつも文庫になるのを待つのも甲斐性がないか、と思うタイミングが定期的に来る。経済力と腕力の問題で普段は文庫にせざるを得ないけど。

両親の事情で瀬戸内海の島に住む祖父母の家に預けられた小学六年生の少女、葉と、島育ちだが島民からは浮いている同級生、真以のお話。ある事件を経て二人は離れ離れになり、大人になってから再会する。少女時代が一部、葉が就職してからが二部。

島社会の描写が結構えぐくて、立ち読みしないで買う作家だったからよかったものの、中身を吟味して買うひとのだったらそれを読むのが嫌さに選んでいなかったかもしれない。以前妹とある島に遊びに行ったとき、インスタグラムに書いた感想を思い出したから自分のために貼っておく。

島には小中学校はあるが高校がなく、接客と海女は女、漁業は男、老若男女問わず全員がスクーターに乗り、島民同士はお互いに顔見知り。ここで人生を過ごすのは、もしくはここから進学や就職をきっかけに出て行くのはどんな気持ちだろうと思った。たまの息抜きで遊びに行っておいて、わたしはここから出て行かなきゃいけない人間だっただろうな、などとなかった島暮らしに思いを馳せていた。道楽もいいところ。

いつだってなかった人生を書いておいてくれるのが千早茜だとまた今回も思い知った。

葉が職場で受けたハラスメントの描写は、彼女が成人後なためかまだ私には息苦しさが少ないのだけど、全体を通して男性や男性社会から受ける抑圧が描かれており、それは結果的に葉と真以のキラッキラの、人生に一度あったらラッキーな、かけがえのない、魂の交流と同じくらい重い主題になっていると思う。それが書いてあるからキラッキラが映える側面もあるのだけれど、単に背景として扱うにはあまりにも迫り出している。
思い返してみれば「クローゼット」にも男性からの暴力をトラウマとして抱える女性が出ていた。千早茜の作品を読むときはいつも、美しい情景や、人物描写の魅力的なディテイル、クソデカ感情ブースト(語彙が急にバカのやつでごめんなさい、でもこれだから)に持ってかれてわけもわからず読み終わってしまうけど、トラウマと向き合うこと、理不尽に立ち向かうことは、彼女にとって大事なテーマなんだろう。
感情は例によっていいようにやられていて、所詮片思いマインド女なのでずっと葉フィルターかけて真以のこと見つめて泣いてた。簡単人間だからそういうバカの読み方しかできない。