江戸川乱歩傑作選

 

夏なので推理小説怪奇小説も収録されている本を読んだ。最初の二篇、「二銭銅貨」と「D坂の殺人事件」のかんじのよさからすると最後の二篇、「鏡地獄」「芋虫」のグロテスクさ、気味の悪さがすごいので、立ち読みを最初からする人か終わりからする人かで期待する内容が違ってしまいそう。今さらこの大作家の文庫を立ち読みしてから買うかどうか決める人はいないかもしれないけど。(個人的にはいて欲しい、ピュアな厨二病の中学生。中学生は青空文庫で読むか、乱歩はもう読めるもんな。)

「芋虫」、キーワード的な連想で谷崎の「春琴抄」とどちらが早いのか気になって確認したのだけどこちらが先だった。「芋虫」が1929年、「春琴抄」が1933年で、谷崎は「芋虫」を読んだことがあっただろうか、と思う。「春琴抄」がもの狂おしい愛情の小説であるのはいうまでもないけれど、「芋虫」にも凄まじい情があって、単におどろおどろしい残酷物語として読むにはもったいないような作品だった。

推理小説のような大衆の娯楽として消費されてきたものにも参照のリレー、リテラシーの醸成は確かにあって、読めば読んだだけわかることが増える。特に乱歩は海外から日本に推理小説のお作法を紹介したようなところがおそらくあって、そういう意味でも、延々"元ネタ"を読める楽しみがあるなあと思う。