D坂の美少年

 

D坂の美少年 (講談社タイガ)

D坂の美少年 (講談社タイガ)

 

 

 恒例の西尾維新

 

読んでいていつも思うのは結局これを熱狂的に読んだらそれなりの教養が身についてしまうということだ。タイトルのオマージュ元をたどり、役不足の誤用についての経緯を確認し、出てくる諺を調べ、とやっていたら、ちょっと賢くなってしまう。厨二病は教養の入口なので、みんな一回かかったほうがいい、啓蒙主義的な視点で言うと。

 脱線すると京極夏彦の作品なんかもたぶんそうで、小説自体はめちゃエンタメだし、たとえ歴史モノだったとしても史実からは遠いから内容自体を信じ込んじゃダメなんだけど、ルビなしには読めなかった漢字を覚え、関連する学術書に当たるだけで、かなり日本語能力が向上し、知識量が増えてしまうだろう。

 西尾維新について特徴的だと思うのは、イディオムが頻出で語彙はわりにオーセンティックなのに、それを前提として、あえて崩して使うような用法が常であることだと思っている。母語話者じゃなかったら読みにくそうと思うし、翻訳するのも骨が折れそうだ。まず刊行のインターバルが無だから疲労骨折するだろうし。(これは別に上手い手本でもないけど、こうやってイディオムを脱臼させる遊びを、したくなるじゃんね、西尾維新読んでたらね。私だけか?)

 私はラノベをほとんど読んできていないので、この分野においては珍しくもない文体なのかもしれないけど。

 

 作品の話をすると、本作は美少年探偵団シリーズの6作目で、私は1作目から順に読んでいる。主人公は "美観のマユミ"こと瞳島眉美で、男装した女子中学生だ。

 これはあとがきにも書いてあったことなんだけど、この少女の性格や動き方が、1作目からだんだん変化しており、その変化の仕方が、最初はネコをかぶっていたのに期せずして化けの皮が剥がれてきてしまった、というような具合なのである。それが面白い。普通は6個も読んだらはいはいいつものお決まりのやつね、となってくると思うのだけど、アレ?ちょっと見ないうちになんか性格変わってないか?となって驚いたし、新鮮だった。

 そうやって彼女自身の尻尾の出し方や他の探偵団メンバーとの関係の深まり方にニヤニヤしながら読み終わったら、作者があとがきで「まさか眉美さんが」と書いていて、書く方が予想だにしなかった変化ならばいわんや読むほうをやだ、と笑った。

 なにせこの2ページのあとがきが至極流麗で、上品な茶漬けみたいな日本語なんでみんな読んでほしいと思っている、そんな感じで西尾維新「D坂の美少年」の感想でした。

 ここにくるべき謝辞が思いつかないから、ちゃんと西尾維新読んでることについて記録を残しておいてくれる今の私にありがとうって言っておく、西尾維新のファンならメタをやらなきゃって思うので。